◆サンプルシナリオ 「恋のSpiral」     夜久珠姫
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◆制作時間 約2時間
◆コンセプト 「純粋な女の子と不良との恋のプロセス」
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<大成(たいせい)大学・礼拝堂>

【日菜子】
(神様、今日も世界が平和でありますように……)
「さて、そろそろ帰ろうかな」

私は大学の神学科に通っている。
本当はシスターになるのが夢だったけど、親に反対され、妥協点とてシスターにはならないから、神学科に通う事を許してもらったのだった。

<街中>

【日菜子】
(あ、もう直ぐ門限だ。急がないと)

急いで歩いていると、すれ違った男性にぶつかってしまった。

【日菜子】
「すみません、大丈夫ですか!?」
【ヤクザ風の男性】
「いってー! この落とし前どうつけてくれんねん!?」
【日菜子】
「落とし前と言われましても……」
【ヤクザ風の男性】
「なら、俺とちょっと遊んでもらおうか。体で」
【日菜子】
「体?」
(体で何をすると言うの?)
【ヤクザ風の男性】
「せや、お互いに気持ち良くやれる方法や」

いきなり腕を掴まれる。振り払おうとしても、びくともしない。

【日菜子】
(怖い……! 誰か……神様!)
【???】
「顔見てもの言えよ」

突然横から声がした。
それと同時に腕が自由になる。

【ヤクザ風の男性】
「何やて!?」
【???】
「そんなツラしてナンパとは、笑えるな」
【ヤクザ風の男性】
「クソガキが何言うてんねん!」
【司】
「俺は炉辺(ろばた)大学の高島司だ。それでも喧嘩売るのか?」
【ヤクザ風の男性】
「な、何やて!? 炉辺の高島!? ひぃいい!」

男性の顔がみるみる青くなり、走って行ってしまった。
神様ではないけど、この高島さんという人のお陰で助かったと安堵した。
高島さんと名乗ったその人は、栗色の髪で整った顔をしていた。そして、、大きく溜め息をつく。

【司】
「あんたさ、ボーッとしてるからいけねぇんだよ。もっと気を付けろ!」
【日菜子】
「は、はい。すみません、ありがとうございました。これで門限に間に合います」

深々と頭を下げ、お礼を言う。
異性とあまり話した事もない事からか、何だか不思議とドキドキして、彼の顔を見ていられなかった。

<炉辺大学・校門>

私は翌日、炉辺大学を訪れ、校門で高島さんが出て来るのを待っていた。
お礼の為に、クッキーを焼いたので、それを渡す為に。
待つこと一時間で、彼が出て来た。

【日菜子】
「あの! 高島さん! 昨日はありがとうございました。これ、お礼です」
【高島】
「ああ? あんた誰」

高島さんは私の事を覚えていないようで、素通りしそうだった。なので、勇気を出して高島さんの前へ出て、お礼の品を差し出す。

【日菜子】
「昨日絡まれていたのを助けてもらった、向井日菜子と言います」
【???】
「司~、先に行くなよ。って誰、その子。めちゃ可愛いじゃん」
【日菜子】
「初めまして、大成大学の向井日菜子と言います。高島さんには昨日助けて頂いて……お礼にクッキーを焼いてきたんです」
【純一】
「大成って名門じゃん。俺は純一。司の悪友。へぇ、司がねぇ。司、クッキーもらわねぇの?」
【司】
「……仕方ねぇな、もらってやるよ」

乱暴に私の手からクッキーの包みを取ると、鞄に無雑作に突っ込んだ。

【日菜子】
(良かった。受け取ってくれた)
【司】
「で? あんたの名前何てったっけ?」
【日菜子】
「向井日菜子です」
【司】
「じゃあ、日菜だな。……今から合コンやるから、日菜も来い」
【日菜子】
「『合コン』って何ですか?」

その場がシーンとなった。そんなに変な事を訊いたのか、恥ずかしくなる。

【純一】
「皆でお酒飲んで騒ぐ事だよ。うん、日菜子ちゃん可愛いから歓迎!」
【日菜子】
「で、では、母に門限を過ぎる事を連絡します」

私はスマホで母に用事が出来て遅くなる事を伝えた。

【司】
「ハッ、何かガキみてぇだな。いちいち親の許可を取るなんて」
【日菜子】
「す、すみません」
【純一】
「ほら、行こうぜ!」

純一さんが私の腕を取り、引っ張られるように道を歩いて行った。行く先を訪ねても、お楽しみ、と言われるだけで少し不安に駆られた。
繁華街に入って行くと、一軒の見た事のない派手なネオンで飾られたお店に着いた。

【日菜子】
「ここは、何のお店でしょうか?」
【純一】
「今日の合コンをするお店だよ。さぁ、入った、入った」

純一さんに背中を押されてお店の中に入ると、凄い熱気が私を襲った。

<居酒屋>

【女性1】
「あーん、司ぁ! 会いたかったぁ!」
【女性2】
「それは私もだよ! 司がいないと寂しいもん! 今日は朝までOKだよぉ」
【日菜子】
(わぁ、綺麗な女の人ばかり。高島さん、人気があるんだ。それにしても賑わってる。これが『合コン』?)
【司】
「日菜、俺の隣に来い」
【日菜子】
「あ、はい」

私はオドオドしながらも、高島さんの隣に腰を下ろした。
でも、何を話したら良いのか分からず、沈黙してしまう。
【司】
「……はぁ。つまんねぇ女だな。日菜、どけ」
【日菜子】
「え……」
【女性1】
「じゃあ、私が司の隣~」

『どけ』と言われた私は、高島さんの声が聞こえないくらい隅の方へ追いやられ、この場で何をして良いのか分からず、俯いていた。

【女性2】
「あんたも司狙い? 言っとくけど、皆、司と繋がってるからね」
【日菜子】
「繋がる?」
【女性2】
「体の関係があるって事! 司は来るもの拒まないから。司を狙うなら、体を投げ出す覚悟を決めるのね」
【日菜子】
「か、体を……」
 
体の関係と言われて、思をず赤面してしまう。その私の様子を見ていた女の人達が、クスクス笑っていて、恥ずかしくなった。
チラリと高島さんを見ると、女性達とボディタッチしながら楽しそうに盛り上がっている。

【日菜子】
「すみません、私、そろそろ帰ります」

<街中>

私はそばにいた人に言われた会費なるものを渡し、お店を一人静かに出た。
そして、何やってるんだろうと情けなくなり、走って家に帰った。

<自室>
「挨拶をしないで帰ってきちゃった。気を悪くしたかな、高島さん。せっかく誘ってくれたのに……」

本当は高島さんとお話がしたかった。他の女の人のように、どうして私には普通に話す事さえ出来ないのか、高島さんに嫌われてなかったかとかが気になりながらベッドに横になり、そのまま眠ってしまった。

<炉辺大学・校門>

翌日、昨日勝手に帰ってしまった失礼をお詫びしようと、また高島さんの大学の前で、彼が出て来るのをまっていた。
どれくらい待っただろうか。やっと高島さんの姿を見る事が出来、駆け寄った。

【司】
「何だよ、またお前か」
【日菜子】
「昨日は勝手に帰ってすみませんでした。これ、今度はタルトを焼いたんですけど……」
【純一】
「おっ、日菜子ちゃんじゃん。昨日気付いたらいなくなってから、心配してたよ。あ、それってタルト? また司に?」
【日菜子】
「は、はい」
【司】
「……お前の好きな体位は?」
【日菜子】
「え? 体位?」
【純一】
「エッチの体位の事だよ」
【日菜子】
「そ、そんなの……知りません……!」

いきなり訊かれた事もない質問に、恥ずかしさで顔が一気に熱くなる。

【司】
「もしかして、処女なのか?」
【日菜子】
「……」
【司】
「いつでも俺が初体験の男になってやるぜ?」
【日菜子】
「は、初体験!?」

その意味位は分かる。だけど面と向かって言われ、どう答えて良いのか分からず、口をパクパクさせてしまう。

【日菜子】
「し、失礼します!」

結局、タルトを渡す事が出来ずに、その場を逃げ去った。

<大成大学・礼拝堂>

【シスター】
「あら、向井さんじゃないの。相変わらず熱心ね。……顔色が悪いわね。何か悩みがあるの?」
【日菜子】
「あの……その人と一緒にいるとドキドキして何も話せなくなってしまって……」
【シスター】
「まぁ、恋の悩みなの?」
【日菜子】
「こ、恋? 私が?」

私は近況をシスターに話した。

【シスター】
「炉辺の学生はやめた方が良いわよ。あそこの大学、良い評判がないから」

シスターから炉辺大学の悪評を聞いたけど、高島さんは私を助けてくれた。

【日菜子】
(それって悪い人だったら、普通は見過ごすよね。でも助けてくれたから、高島さんが悪い人だなんて思えないよ)

それから、しばらくは炉辺大学には行かなかった。しつこくして嫌われるのが嫌だったからだ。

【日菜子】
(今日はたっぷり祈ったし、この辺で帰ろうかな)

校門に差し掛かると、辺りがざわざわしていた。

【女学生1】
「ねぇ、ねぇ、あの人、カッコ良くない?」
【女学生2】
「やっぱりそう思う? でも声なんて恥ずかしくて掛けられないし……」

【日菜子】
(誰がいるのかな?)

そう思って、ゆっくり校門を過ぎると、そこには高島さんがいた。
でも、何を話して良いのか分からなかったので、人混みに紛れて帰ろうとした時、手を捕まれた。

【司】
「日菜、俺をスルーするな」
【日菜子】
「た、高島さん……」
【司】
「日菜を待ってたんだよ。この俺が……!」
【日菜子】
「わ、分かりましたから、手を……離して下さい」
【司】
「駄目だ。離したら、逃げるかもしんねぇだろ」
【日菜子】
「……」
(そんなに真っ直ぐジッと見詰められると……ドキドキして苦しいよ)

鼓動が速くなり、顔が熱くなるのが自分でも分かる。
今掴まれている手から、熱が広がって、体が熱い。
私達は、近くの公園に行って、ベンチに腰を下ろした。

<公園>

【日菜子】
「あの……ご用件は……」
【司】
「困ってんだよ! お前のせいで……!」
【日菜子】
「え?」
(どういう意味? 私、何かした?)
【司】
「……合コンでは何も喋らねぇし、かと思えば翌日校門で待ってるし、訳分かんねぇよ!」
【日菜子】
「す、すみません」
【司】
「俺のイライラの原因も分からねぇのに謝るな!」
【日菜子】
「う……」
【司】
「……どの女を抱こうとしても、日菜の顔がチラついて、抱けねぇんだよ!」

高島さんの手が私の頬に触れた。

【司】
「日菜なら抱ける。……この意味わかるか?」
【日菜子】
「わ、分かりません……」
(高島さんに触れられてる……。凄くドキドキするよ……!)
【司】
「俺は特定の女を作らねぇ主義だった。だけど日菜、俺はお前を……っ! くそっ! 認めたくねぇが、……俺は日菜が気になる存在になってる」
【日菜子】
「高島さん……」
【司】
「お前は俺をどう思ってるんだ?」
【日菜子】
「……ド、ドキドキしま……す」
【司】
「なら問題はねぇな。日菜、俺の女になれ」
【日菜子】
「俺の女……と言いますと?」
【司】
「ったく、鈍い女だな。俺と付き合えって事だ。どこへ、なんて間抜けな質問はするなよ。恋人になるって意味だ。チッ! 何で俺が説明してんだよ!」
【日菜子】
(これって……告白、というやつですか? って聞いたら怒られそう)
「わ、私で良いんですか?」
【司】
「お前以外に誰がいるって言うんだ!? 俺をこんな気持ちにさせやがって! 全く腹が立つぜ」

高島さんが、イラつきながらも頬をうっすら赤らめている。

【日菜子】
「う、嬉しいです。不束者ですが、どうぞ宜しくお願いします。ん……!」

両手で頬を支えられて、キスをされる。
初めての体験に、体にピリピリとした電気が走るような感覚がした。

【司】
「いいか? 俺以外の男によそ見するなよ」
【日菜子】
「しませんよ。だって、私の方が先に高島さんを……好きになったみたいですから」
【司】
「何だよ、その『みたい』って」
【日菜子】
「司さんと会うとドキドキしちゃう気持ちの正体を教えてくれたのは、シスターなんです」
【司】
「シスター?」
【日菜子】
「神様と結婚を誓った人って感じですね。私もそうなる予定だったですけど、親に反対されて……」
【司】
「親に感謝しねぇといけねぇな」
【日菜子】
「そうですね。こうやって並んで座っていられるだけで幸せです」
【司】
「っ! そんな恥ずかしい事言うな」

そう言いながら、もう一度キスをされる。

【司】
「今夜、抱かせろ」
【日菜子】
「突然そう言われましても……今日はレポートを仕上げないといけ――」
【司】
「そんなんどーでも良いだろ」
【日菜子】
「駄目ですよ。学業は大切です。それに……体の関係は……直ぐには……」
【司】
「だー、分かったよ! くそっ! 女なんて直ぐに抱ける存在だってのに。……仕方ねぇから日菜に合わせてやるよ」
【日菜子】
「ありがとうございます」
(やっぱり良い人だ)

恋愛に慣れてないけど、これからもときめきを大切にして、高島さんと歩いて行こうと、そう神様に誓った。


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