「裸の様」


 その日、裸の王様は見つけた。
 不法時されている毛皮のコートを。
 見事に穴の空いていないローブ型のコート。
 それはとても柔らかでフカフカだった。
 手に取ると、蕩けてしまうような感触がする。
 そんなコートを王様は大そう気に入った。

 何の毛だろう?
 そう思いながら王様は羽織り、腰紐を結んだ。
 腰紐は皮製だった。

 何の皮だろう?
 王様は思う。肌触りがとてもすべすべしていて、とても気持ちが良い。
 王様は更にこのコートを気に入った。
 毛皮のコートを羽織る王様は、とてもウキウキしていた。
 これで、『裸の』王様と呼ばれなくて済む。
 そう思うと、自然に顔がゆるむ。
 王様は顔を上げ、力強く地を踏んで歩いてみる。
 すれ違う人はいなかったが、それでも王様は自慢気に道の真ん中をグングン歩く。

 ポツ……。
 ポツポツ。

 天から滴が地に落ちる。
 「おや? 雨かい?」
 王様は天を仰いだ。

 曇天。

 せっかくの毛皮のコートが濡れてしまう……。
 王様はどこか雨宿りができそうな所を探した。

 ぎゅぎゅっ……。

 「ん?」
 雨に濡れるにつれて、毛皮のコートが絞め付け始めた。
 
 ぎゅうぎゅう。
 きゅうきゅう。
 どこまでも。

 毛皮のコートから血肉が溢れてきた。
 しかし、王様は恍惚の表情を浮かべている。
 そして、操り人形の糸が切れたように、王様はぐしゃっと地に倒れこんだ。

 地には王様の血は一切流れず、ピンク色の肉片だけが毛皮のコートから顔をのぞかせていた。
 王様の口元は満足そうにほくそ笑んだままだ。
 
 きっと王様は幸せなのだろう。
 何しろ、『裸』ではなくなったのだから。 
 
 暖かい人の産毛のコートに身を包み、人の皮で編み込まれた腰紐。
 それらにより、王様は世界で一番幸せになったのだから――


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